腸内微生物の憂鬱

腸内微生物の憂鬱は、あなたの憂鬱に。腸内微生物の幸福は、あなたの幸福に繋がる。お腹の中の「住人」は、日々我々の心と体に内側から語りかけ、我々の身体も、絶えずその声に呼応している。効率性ばかりが重視される現代において様々な問題を抱える我々は、どうすれば彼らを「幸福」にできるのか。その答えを探る。


目次

僕らの中の小さな住人たち

僕たちの体の中には、たくさんの小さな住民がいる。どのくらいいるって?それは約100兆人いるんだ。地球の総人口の10万倍もの数に匹敵するこの住民たちは、僕たちのお腹の中で一つの生態系を築いている。この住民達が作り出す生態系は人間の生涯を通じて変化し続けるんだ。そんな住民の名前は、腸内微生物。今日はそんな彼らの存在とWell-beingの関係を簡単に紹介する。

こんにちは、腸内微生物。

そもそも微生物たちは40億年前から地球に存在していた。その頃は、それ以外の生き物は存在せず、彼らの数は夜空の星の数より多く、海水の中に漂い、独自のミュニケーションを取り合っていた。そして5億年前、多細胞生物が誕生し、海の中で進化した。その多細胞生物の消化管の中に海洋微生物が出現するようになる。この頃から微生物は様々な生物と共生関係を築くようになり、生物が進化した現代、人間の腸の中にも約100兆個の微生物がいると言われている。

腸内微生物の憂鬱

微生物は主に僕たちの腸の中で消化・成長・繁栄を絶え間なく繰り返している。人間の暖かな体温の中、常に食物が提供されるのだから、彼らにとってこんな良い環境はない。でも微生物だけが得をしているってわけではないんだ。彼らは良い環境と引き換えに、必須ビタミンを提供したり、未知の化学物質を解毒してくれたり、僕たちの消化器系が分解・吸収しきれない食物繊維や糖類を消化してくれて良質な便を生み出したりと、良好な関係をしっかりと築いている。


心と腸と微生物

微生物たちは人々の心とも深く関わっている。あなたが他者から心を傷つけられた時、怒りや不安そして恐怖などの感情が喚起する。そのような感情が喚起すると消化器系は収縮し微生物の居住環境に劇的な変化を及ぼす。それに反応し乳酸菌や糞便性細菌の数は減少し、赤痢菌や大腸菌などの菌類が勢力を増し、腸感染につながり、長期間続けば下痢や腹痛を呈するようになる。

心の感情をポジティブなものに変化するのにも微生物は深く関わっている。セロトニンという脳内ホルモンが人間にはあり、俗に“幸せホルモン“と言われている。このセロトニンは鬱病の患者には極端に少ない事が知られている。腸内微生物はこのセロトニンを人間の脳の中で適切に分泌させる過程において大きな役割を担っている。僕たちが肉・魚などのタンパク質を摂取する、消化器系で消化・吸収の過程でそのタンパク質の一部は、トリプトファンというアミノ酸に変換される。そしてそのトリプトファンは腸内微生物の作用によってセロトニン前駆体に変換され、脳へと送られ、幸せという感情をもたらす。

Well-beingな腸内微生物とBad-beingな腸内微生物

僕たちのお腹の中にはたくさんの微生物が生態系を形成している。ではこの時に良い状態とはどんな状態を指すのだろうか。その基準に腸内微生物の多様性が挙げられる。この多様性が減少すると、感染症・粗悪な食事・投薬によるストレスに対しての抵抗力がなくなり、適切に回復する事ができない状態になってしまう。また、肥満・炎症性腸疾患などが多様性の減少に深く結びつくと言われている。腸内微生物にとっての良好な環境(多様な状態)が私たち人体に対して良い状態を生み出しているのだ。

腸内微生物の憂鬱

しかし現在の社会ではこの多様性の低下を招く様々なbad-beingが存在する。
例えば、コンビニなどで売られている加工食品がある。食品添加物や様々な化学物質が含まれており常習的に摂取することによって腸内微生物の環境に変化を与えてしまう。また現代の食品産業は、微生物の複雑性や多様性を考慮せずに効率性を重視している。そこで育てられる動物たちは小さな小屋の中に閉じ込められ、トウモロコシなどの穀類で満たされた餌入れに固定されている。生涯を通じて自然な環境や食物供給から切り離されて暮らす。消化器系に合わない餌を与えられ続け太らされた動物は消化管障害が引き起こされ、腸内微生物が変異している可能性があるかもしれない。僕たちが、そのような動物の肉や乳などを常習的に摂取しているとすれば、腸内微生物に対して負の影響を及ぼしている事が言えるだろう。下痢や腹痛を頻度良く呈するようになり、負の感情を喚起させ不安障害や抑鬱の症状を呈するようになるかもしれない。

食生活においてWell-beingになるために

腸内微生物の多様性を維持し良い状態を維持し続けるためには、どのようなことをする必要があるのか。それは以下のようになる。

動物性脂肪を控える。

肉の中に含まれている動物性脂肪を習慣化していると、腸内微生物に対して負の影響を及ぼす。血中の炎症分子(サイトカインやグラム陰性菌)レベルが身体全体にわたって上昇する。腸内微生物の構成が変化し、最終的に脳の食欲をコントロールする中枢(視床下部)を狂わせる。この状態になってしまえば、たくさんの食事を摂取しないと満たされていない感覚に陥る。そのような状態にならないように動物性脂肪を控える必要がある。

加工食品や大量生産された食品は避ける。

加工食品は腸内微生物に対して負の影響を及ぼす。例えば人工甘味料は腸内微生物の代謝物に変化を与え、人体を太りやすい状態にする。ダイエット食品の多くに人工甘味料が含まれるが食欲をコントロールする中枢(視床下部)に影響を与えてしまうので良い結果には結びつかないだろう。

 また、大量生産された食品は前述した通りに、生産の過程に問題があり生産物(肉・乳)などの腸内微生物の多様性が低下している傾向にある。その食品の摂取が習慣化してしまえば私たちの腸内微生物に負の影響を及ぼすことは容易に想像がつくだろう。肉を食べるならその生産過程を調べてみよう、最近は牧草を食べた牛のお肉などが売られている場合がある。

プレバイオティクスを摂取し腸内微生物を培養する。

腸内細菌である乳酸菌、ビフィズス菌の餌になる食物繊維やオリゴ糖などの総称のことをプレバイオティクスという。穀類・野菜・豆類・昆布やワカメなどを摂取することによって腸内微生物に餌を与え腸内微生物の居住環境を整え、腸内微生物の多様性を維持する事ができる。

プロバイオティクスや発酵食品を摂取する。

プロバイオティクスには人体を良くする多様な微生物が含まれており、摂取することによって腸内微生物の多様性を維持する。特にストレスな環境下にさらされた時にこのサプリメントは役に立ち、負の影響を受けている腸内微生物の状態をより良い状態に戻す手助けをしてくれる。

最後に。

あなたの習慣は腸内微生物に良い状態をもたらしていたか。もし良い状態でなければ、まずは食習慣から変化を与えてみよう。小さな住民たち微生物が僕たちのお腹の中で幸せに暮らす事ができたら、僕たち自身も幸せを手に入れる事ができるかもしれない。

参考文献

  • エムラン・メイヤー (2019)「腸と脳」(高橋洋訳) 紀伊国屋書店 
  • 藤田紘一郎 (2011)「こころの免疫学」新潮社
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